あなたに会いに行く④
Category: アルトフールの物語
と、思いきや、入り口の罠にかかっていたのは見覚えのある3人組だった。
浅黒い肌の青年に、袴を着たおかっぱ頭の少女、そして白いぬいぐるみのような二足歩行の生き物。マナとクルガとニタだ。3人は罠にはかかったものの私みたいにすっ転んではいなかった。
私の姿を見つけると、白いぬいぐるみ、基い、ニタが私を指差して「クーちゃんいたー!そしてハッシュも!」
と叫んだ。
私はとっさにハッシュの後ろに隠れる。多分ニタとマナは突然いなくなった私を探しに来たんだ。クルガはマナの護衛だと思うけど…。
「クグレック、一人でどこかに行くのは危ない。」
「ご、ごめんなさい。」
おかっぱの少女マナは無表情で言う。が、瞬きもせずじっとこちらを見つめているということは少し怒っているのかもしれない。
「てゆーか、ハッシュじゃないっすか!良かった無事だったんっすね!」
「あぁ、まぁな。」
キラキラした表情を見せながら浅黒い肌の青年クルガが嬉しそうに言う。
だがそんな朗らかな間は一瞬だった。
マナはクルガとハッシュの再開の喜びを遮るように割って入り「クグレック、帰るよ。」と言って来た。
「このあたりに近付くにつれて、魔物が多くなっていた。ククがいる限り魔物がここにやって来るのも時間の問題。この地を危険にさらしたくなければ、一刻も早くアルトフールに戻ること。」
マナの言葉は私にとって重かった。正面から痛いところを厳しく突かれている。
ハッシュが守りたいこの土地を、私が危険に晒してしまいかねない。それは薄々感じていたけど、改めてマナにはっきり言われると強く現実味を帯びてしまい、楽観視していた自分が情けなく思えてくる。
マナの厳しい視線は痛いほどに私に浴びせかかってくる。無言の叱責とはこういうことか。
そばのニタとクルガは申し訳なさそうな表情をしている。
「…そうだね。長居はしてられない。私、帰るね。」
私は、ハッシュの前に出て、懐から魔除けの小袋を取り出す。そして、それをハッシュに手渡す。
「ハッシュ、子供達を守って。…また、会おうね。」
私は、笑顔を取り繕った。ハッシュが旅に出る前、私はあなたから「笑顔が見たい」と言われていたから。
それに、あの時と違って先が見えない別れじゃないもの。またきっと会える。
と、その時、突然ハッシュが私を抱きしめて来た。そして私にしか聞こえないように耳元で囁く。
「ありがとう。ククが来てくれて本当に良かった。また、会おうな。」
私もハッシュの腰に手をまわして抱き締める。ハッシュの温もりを全身で受け止める。
そして、お互い離れて、マナ達を振り返る。
するとそこには全身の毛を逆立てているニタと、口をぽかんとして開けているクルガの姿があった。
クルガは顔を振って気を取り直し
「って、ハッシュは帰らないんすか?」
と尋ねた。ハッシュはゆっくりと頭を横に振り、落ち着いた口調で答えた。
「あぁ。ちょっと今やるべきことがあって、まだ帰れないんだ。…まぁ、また来いよ。俺も皆に会いたいし、話もしたい。」
「うん、ハッシュがいないと寂しいっす。早く用事を済ませて、戻って来るっす。えっと…、きっとククも寂しいと思うし…」
最後の方は恥ずかしそうに口ごもるクルガだったが、ハッシュは特に動じることなく「そうだな。」と笑顔で答えた。ニタの毛が再びぶわっと逆立つ。ニタの反応が面白い。
「…また来るから。」
と、マナが言った。ハッシュは「あぁ」と一言だけ応えた。
それから私達はマナの空間移転魔法でアルトフールに戻った。
見慣れた空間に、私は安堵感を覚えると共に、ハッシュと過ごしたあの時間を急に恋しく感じていた。
でも、けっして夢のような幻の時間ではない。このイルカのチャームのネックレスがある限り、あの時間は間違いなく現実のものだったし、再び会うことが出来る。だからずっと希望を感じていられる。
逆毛立ったニタが一緒に寝たいと申し出て来た。逆毛立ってはふかふかのニタの毛が台無しだから、ブラッシングをしてあげなきゃ。おそらくベッドでは「どういうことなのか」と質問攻めに合うと思うけど、私はハッシュに会えたことが嬉しかったし、幸せだった。
だから、ニタには、ニタだけには私のこの気持ちを聴いてもらうんだ。
浅黒い肌の青年に、袴を着たおかっぱ頭の少女、そして白いぬいぐるみのような二足歩行の生き物。マナとクルガとニタだ。3人は罠にはかかったものの私みたいにすっ転んではいなかった。
私の姿を見つけると、白いぬいぐるみ、基い、ニタが私を指差して「クーちゃんいたー!そしてハッシュも!」
と叫んだ。
私はとっさにハッシュの後ろに隠れる。多分ニタとマナは突然いなくなった私を探しに来たんだ。クルガはマナの護衛だと思うけど…。
「クグレック、一人でどこかに行くのは危ない。」
「ご、ごめんなさい。」
おかっぱの少女マナは無表情で言う。が、瞬きもせずじっとこちらを見つめているということは少し怒っているのかもしれない。
「てゆーか、ハッシュじゃないっすか!良かった無事だったんっすね!」
「あぁ、まぁな。」
キラキラした表情を見せながら浅黒い肌の青年クルガが嬉しそうに言う。
だがそんな朗らかな間は一瞬だった。
マナはクルガとハッシュの再開の喜びを遮るように割って入り「クグレック、帰るよ。」と言って来た。
「このあたりに近付くにつれて、魔物が多くなっていた。ククがいる限り魔物がここにやって来るのも時間の問題。この地を危険にさらしたくなければ、一刻も早くアルトフールに戻ること。」
マナの言葉は私にとって重かった。正面から痛いところを厳しく突かれている。
ハッシュが守りたいこの土地を、私が危険に晒してしまいかねない。それは薄々感じていたけど、改めてマナにはっきり言われると強く現実味を帯びてしまい、楽観視していた自分が情けなく思えてくる。
マナの厳しい視線は痛いほどに私に浴びせかかってくる。無言の叱責とはこういうことか。
そばのニタとクルガは申し訳なさそうな表情をしている。
「…そうだね。長居はしてられない。私、帰るね。」
私は、ハッシュの前に出て、懐から魔除けの小袋を取り出す。そして、それをハッシュに手渡す。
「ハッシュ、子供達を守って。…また、会おうね。」
私は、笑顔を取り繕った。ハッシュが旅に出る前、私はあなたから「笑顔が見たい」と言われていたから。
それに、あの時と違って先が見えない別れじゃないもの。またきっと会える。
と、その時、突然ハッシュが私を抱きしめて来た。そして私にしか聞こえないように耳元で囁く。
「ありがとう。ククが来てくれて本当に良かった。また、会おうな。」
私もハッシュの腰に手をまわして抱き締める。ハッシュの温もりを全身で受け止める。
そして、お互い離れて、マナ達を振り返る。
するとそこには全身の毛を逆立てているニタと、口をぽかんとして開けているクルガの姿があった。
クルガは顔を振って気を取り直し
「って、ハッシュは帰らないんすか?」
と尋ねた。ハッシュはゆっくりと頭を横に振り、落ち着いた口調で答えた。
「あぁ。ちょっと今やるべきことがあって、まだ帰れないんだ。…まぁ、また来いよ。俺も皆に会いたいし、話もしたい。」
「うん、ハッシュがいないと寂しいっす。早く用事を済ませて、戻って来るっす。えっと…、きっとククも寂しいと思うし…」
最後の方は恥ずかしそうに口ごもるクルガだったが、ハッシュは特に動じることなく「そうだな。」と笑顔で答えた。ニタの毛が再びぶわっと逆立つ。ニタの反応が面白い。
「…また来るから。」
と、マナが言った。ハッシュは「あぁ」と一言だけ応えた。
それから私達はマナの空間移転魔法でアルトフールに戻った。
見慣れた空間に、私は安堵感を覚えると共に、ハッシュと過ごしたあの時間を急に恋しく感じていた。
でも、けっして夢のような幻の時間ではない。このイルカのチャームのネックレスがある限り、あの時間は間違いなく現実のものだったし、再び会うことが出来る。だからずっと希望を感じていられる。
逆毛立ったニタが一緒に寝たいと申し出て来た。逆毛立ってはふかふかのニタの毛が台無しだから、ブラッシングをしてあげなきゃ。おそらくベッドでは「どういうことなのか」と質問攻めに合うと思うけど、私はハッシュに会えたことが嬉しかったし、幸せだった。
だから、ニタには、ニタだけには私のこの気持ちを聴いてもらうんだ。
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