あなたに会いに行く⑥
Category: アルトフールの物語
ククの体は、無事に生まれたての土地へと転移した。
だが、炎天下での空間転移魔法の使用で体力が奪われてしまったことと、全ての魔力を使い切ってしまったことで、ククは到着するや否や、その場に倒れて気を失ってしまった。
突然現れたククに、子供たちはびっくりしたが、すぐにハッシュを呼んだので、ククはハッシュに抱かれてハッシュの部屋のベッドに寝かされた。
「クク…。お前、一体どうしたんだよ…。」
青白い顔で眠りにつくククに、ハッシュの気持ちは不安になる。
再会出来て嬉しい反面、尋常じゃない彼女の様子に、ハッシュは困惑してしまう。
汗で額にぺったりとくっついたククの髪を梳きながらハッシュは彼女を見つめる。
ククはただひたすら苦しそうに眠るだけで、何も言わない。
「…」
ハッシュは、おもむろにベッドに上がり、ククの上に乗る。何も言わないククに顔を近づけると、かさかさに乾いてしまった唇に、自身の唇を重ね、抱き締めた。二人の空間がゆらりと陽炎に包まれる。
と、その時、部屋の扉が開き、錫杖を構えた袴姿のおかっぱの少女が現れた。
「離れなさい。畜生が。」
ハッシュはハッとして起き上がり、少女の方を見る。
「マ、マナ…。」
袴姿の少女はアルトフールのリーダーのマナに間違いはなかった。蔑むような目でハッシュを見下している。
まるで氷の様に冷たい視線だ。
しかしながら一方で、彼女の着る袴は真っ赤に染まっている。まるで返り血を浴びたかのように。その麗しき顔にも血がついている。
「悪趣味にもほどがある。クーを返しなさい。」
「…どういうことだ?」
「こちらが聞きたい限り。媒介はどこにあるの?」
「…意味が分からない。」
マナは小さくため息を吐くと、ハッシュに向かって錫杖を構える。
「…ハッシュ…。」
ククがか弱い声を出すのと同時に、マナはハッとして錫杖を下ろす。
「ここは、生まれたての土地…?ああ、良かった。上手く行ったんだ…。」
ハッシュは自分の下で目を覚ましたククを安心した表情で愛しそうに見つめる。ククも同様に安心した表情で、ハッシュを見つめる。まだ顔色は青白いので、まだ体力も魔力も戻ってはいない。
「クク、無理するな。落ち着くまで寝てろ。」
「…マナはまだ来てない?マナはこの地を潰しに来るって…。」
「…え、何だって?マナなら今そこに…」
ククは体を起こそうとするが、力が入らない。ハッシュに支えられながら、ククは体を起こした。マナの存在を目にすると、ククは険しい表情になり、いつになく憎悪のこもった目でマナを睨み付ける。だが、鮮血にまみれたマナの姿に気付いた途端ククは泣きたくなった。
「マナ…?子供達を、…どうしたの?」
ククの問いかけにマナは何も答えなかった。ハッシュはどういうことかと眉間に皺を寄せながら考えていたが、すぐに察知して、マナを押しのけて部屋を飛び出していった。そしてしばらくすると、外からは彼の声と思われる咆哮が聞こえて来た。
彼は外の凄惨な光景を目の当たりにしてしまったのだろう。
ククは沈痛な面持ちでハッシュの胸中を察する。
ハッシュが守りたかった子供たちはいとも容易く目の前の不老長寿の女に殺されてしまったらしい。
ククは目の前の女を殺してしまいたいと思ったが、体に力が入らない。全身が重くてだるいのだ。ベッドから身を乗り出そうとするも、体が言うことを聴かない。ベッドに横たわったまま、ククは血にまみれた不老長寿の女を睨み付ける事しかできなかった。
しばらくして、階段を駆け上がる大きな音を立てて、ハッシュが部屋に戻って来た。息を切らせてマナを睨み付けると、肩を抑えて「どうして、どうしてあんなことをしたんだよ!」と声を荒らげて、激しく揺さぶった。
「俺が一体お前に何をした!何故あいつらが殺される必要があるんだ!」
と、ハッシュが言った瞬間、ハッシュの両手首が切断され、マナに向かって激しく血が噴射した。
ハッシュは呆然とした表情で手のない自身の手首を見つめる。
「…どうして?」
「……あなたたちは、幻。ククの思念とこの地に残った人々の思念。」
マナは、手にしていた錫杖を手に取り、ハッシュに近付けた。こつんと軽く彼の額に錫杖を当てると、ハッシュは意識を失ってそのまま仰向けに倒れた。
「…マナ?」
一部始終を見ていたククは、相次ぐ最悪の事態の訪れに精神がついていけなくなった。また、体力も魔力も底をついていたこともあり、目の前が真っ黒に包まれて、気を失った。
だが、炎天下での空間転移魔法の使用で体力が奪われてしまったことと、全ての魔力を使い切ってしまったことで、ククは到着するや否や、その場に倒れて気を失ってしまった。
突然現れたククに、子供たちはびっくりしたが、すぐにハッシュを呼んだので、ククはハッシュに抱かれてハッシュの部屋のベッドに寝かされた。
「クク…。お前、一体どうしたんだよ…。」
青白い顔で眠りにつくククに、ハッシュの気持ちは不安になる。
再会出来て嬉しい反面、尋常じゃない彼女の様子に、ハッシュは困惑してしまう。
汗で額にぺったりとくっついたククの髪を梳きながらハッシュは彼女を見つめる。
ククはただひたすら苦しそうに眠るだけで、何も言わない。
「…」
ハッシュは、おもむろにベッドに上がり、ククの上に乗る。何も言わないククに顔を近づけると、かさかさに乾いてしまった唇に、自身の唇を重ね、抱き締めた。二人の空間がゆらりと陽炎に包まれる。
と、その時、部屋の扉が開き、錫杖を構えた袴姿のおかっぱの少女が現れた。
「離れなさい。畜生が。」
ハッシュはハッとして起き上がり、少女の方を見る。
「マ、マナ…。」
袴姿の少女はアルトフールのリーダーのマナに間違いはなかった。蔑むような目でハッシュを見下している。
まるで氷の様に冷たい視線だ。
しかしながら一方で、彼女の着る袴は真っ赤に染まっている。まるで返り血を浴びたかのように。その麗しき顔にも血がついている。
「悪趣味にもほどがある。クーを返しなさい。」
「…どういうことだ?」
「こちらが聞きたい限り。媒介はどこにあるの?」
「…意味が分からない。」
マナは小さくため息を吐くと、ハッシュに向かって錫杖を構える。
「…ハッシュ…。」
ククがか弱い声を出すのと同時に、マナはハッとして錫杖を下ろす。
「ここは、生まれたての土地…?ああ、良かった。上手く行ったんだ…。」
ハッシュは自分の下で目を覚ましたククを安心した表情で愛しそうに見つめる。ククも同様に安心した表情で、ハッシュを見つめる。まだ顔色は青白いので、まだ体力も魔力も戻ってはいない。
「クク、無理するな。落ち着くまで寝てろ。」
「…マナはまだ来てない?マナはこの地を潰しに来るって…。」
「…え、何だって?マナなら今そこに…」
ククは体を起こそうとするが、力が入らない。ハッシュに支えられながら、ククは体を起こした。マナの存在を目にすると、ククは険しい表情になり、いつになく憎悪のこもった目でマナを睨み付ける。だが、鮮血にまみれたマナの姿に気付いた途端ククは泣きたくなった。
「マナ…?子供達を、…どうしたの?」
ククの問いかけにマナは何も答えなかった。ハッシュはどういうことかと眉間に皺を寄せながら考えていたが、すぐに察知して、マナを押しのけて部屋を飛び出していった。そしてしばらくすると、外からは彼の声と思われる咆哮が聞こえて来た。
彼は外の凄惨な光景を目の当たりにしてしまったのだろう。
ククは沈痛な面持ちでハッシュの胸中を察する。
ハッシュが守りたかった子供たちはいとも容易く目の前の不老長寿の女に殺されてしまったらしい。
ククは目の前の女を殺してしまいたいと思ったが、体に力が入らない。全身が重くてだるいのだ。ベッドから身を乗り出そうとするも、体が言うことを聴かない。ベッドに横たわったまま、ククは血にまみれた不老長寿の女を睨み付ける事しかできなかった。
しばらくして、階段を駆け上がる大きな音を立てて、ハッシュが部屋に戻って来た。息を切らせてマナを睨み付けると、肩を抑えて「どうして、どうしてあんなことをしたんだよ!」と声を荒らげて、激しく揺さぶった。
「俺が一体お前に何をした!何故あいつらが殺される必要があるんだ!」
と、ハッシュが言った瞬間、ハッシュの両手首が切断され、マナに向かって激しく血が噴射した。
ハッシュは呆然とした表情で手のない自身の手首を見つめる。
「…どうして?」
「……あなたたちは、幻。ククの思念とこの地に残った人々の思念。」
マナは、手にしていた錫杖を手に取り、ハッシュに近付けた。こつんと軽く彼の額に錫杖を当てると、ハッシュは意識を失ってそのまま仰向けに倒れた。
「…マナ?」
一部始終を見ていたククは、相次ぐ最悪の事態の訪れに精神がついていけなくなった。また、体力も魔力も底をついていたこともあり、目の前が真っ黒に包まれて、気を失った。
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