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あなたに会いに行く⑦








 


 その後、ククは外で目を覚ますこととなった。
 辺りは夕闇が迫っており、一面焼け野原であることが何となくわかった。5,6軒の建物の残骸が残っている。
 ククの傍にはマナが座り込んでいた。錫杖を支えにして、上手い具合に寄り掛かってぼんやりとしている。
 その体は血にまみれていたが、さらにその上に泥がくっついて、彼女の綺麗な袴は最早惨たらしいほどに汚れてしまっていた。
 ククは眠りにつく前のことを思い出す。が、その前のこと、何故ここにいるのかが思い出せない。
 ククは辺りをきょろきょろ見回すが、マナ以外に人は見つからない。
 いや、人はいないが、すぐ近くに骨の山がある。もしかすると、この骨は人間なのではないだろうかという考えがククの頭を過ぎり、気味が悪くなった。吐き気がしそうだ。
 更に辺りをよく見回す。焼け野原であれどもどこか見たことのある風景のような気がしてならなかった。
 だが、ククにはよく思い出せなかった。
 ククは不安に包まれながらも、体に着いた煤をはたき落とし、マナを見遣る。
 マナは錫杖に寄り掛かりながら、ただ一点を見つめてぼんやりしている。彼女のその視線の先には、くたびれたぬいぐるみがあった。大きな札が貼ってあり、何のぬいぐるみなのか判断がつかなかったが、耳が長いので、ウサギのぬいぐるみかな、とククは思った。ただ、どこかで見た様な気がした。が、はっきり思い出すことが出来なかった。
 マナはククの視線に気付くと、一瞥するだけで特に興味を示さなかった。
 ハッシュは一体どうなってしまったのだろう。
 ククは立ち上がり、辺りを探索してみることにした。体はだるく、重かった。
 この周辺には5,6軒の建物の残骸が残っている。そのうちの2軒は全焼はしているものの主要な柱が残っているので、どのような間取りなのかは押して図ることが出来た。
 一つは比較的大きな家だったようだ。ククが目を覚ました場所を中心として、その家はそこに建っていたようだ。
 もう一つはこちらも大きな家のようだが、やけに柱が多すぎるような気がした。鉄製の農具が焼け焦げた様子で存在していたので、もしかするとここは倉庫か何かだったのかもしれない。
 更に進んで行くと、この集落の入り口と思しき箇所に宿り着いた。焼け焦げて半分ほど消失しているが、大きな2本の柱が立っておりそこからこの集落を守るように、柵が並んでいたようだ。しかしその柵も、既にほとんどが消失していて、その役割を成してない。
 そして、ククはその柱にかかっている小さな小袋を見て、やっと目が覚める前のことを思い出した。
 ここは「生まれたての土地」だ。
 ちょうど今日、マナがこの土地を潰しに来たところだった。
 おそらく、マナはこの土地の子供達をあらかた殺しまわってククとハッシュの元へ来た。
 そして、マナはこともあろうかハッシュの手首を切り落とし、ハッシュの意識を奪った。
 ククの記憶はここで途切れている。凄惨な記憶の流入にククは立ち眩みと眩暈がして、その場にしゃがみ込んでしまった。が、状態が落ち着いてから、再び自分が目覚めた場所へ戻った。
 比較的原型を留めていた2軒の建物は、おそらくハッシュや子供達が暮らしていた家と畜舎だ、とククは気付いた。
 マナは子供の命を奪っただけでなく、その住居まで破壊してしまったのだろうか。
 ククが元の場所に戻ると、マナは相変わらずぼんやりしていた。
 そんなマナを見てククの心には強い憎悪の気持ちが湧いて来た。自身が目覚めた場所には幸いにも杖が置かれていたので、ククは杖を手に取り、マナに向けて話しかける。マナの返答次第で、ククはマナへ攻撃を仕掛ける覚悟でいた。
「マナ、これは一体どういうこと?子供たちは?ハッシュは?一体どうしたの?」
 マナは無表情でククを見つめる。
「マナ、お願い、答えて。答えなきゃ私…」
 マナは錫杖を支えにして立ち上がり、ククと対面した。
「子供たちは死んでいた。ハッシュは生きている。」
「どういう意味?」
 ククの問いかけに、マナは傍に落ちている大きな札がついた小汚いウサギのぬいぐるみをひろい上げた。
「クーはあなたの力を狙う魔物に狙われていたの。」
 マナの言うことをククは理解できなかった。あまりにも唐突な話で、着いて行けなかった。
「でも、これは魔物なのか、土地の力なのか私には分からない。とにかく、ククの魔力が狙われていた。」
 夕日が沈んで、黄昏の中、お互いの顔はぼんやりと認識できるくらいに暗くなってきた。
「ここは「生まれたての土地」ではない。「幻想と悲しみの土地」に変わりつつあった。土地は自身を成長させるために、力が必要だった。でも、この地には人がいない。だから、土地は魔物を取り込んだ。その魔物は人の願いを幻として具現化させることが出来る、少し特殊な魔物。幻術使いとして見ればいい。でも、そう強い幻術をかけることは出来ないから、長い時間効果があるわけでもないし、幻も完全ではない。でも、土地は魔物に力を与えて、自身が思うように動かした。人の強い思いを取り込んで、幻として存在させた。これが第一段階。この土地に残った人――いえ、この土地に残った思いを魔物が幻として具現化させた。それがこのぬいぐるみから生まれていた。」
 ククはマナの話の意味が分からず、ちんぷんかんぷんであったが、理解しようと必死ではある。
「第二段階として、土地は力を必要とした。ちょうどククの力を察知して、土地はククを引き込んだ。ククは幻にまんまとひっかかった。そして、ククの魔力を取り込もうとした。」
「幻とか、土地だとか、良く分からない。子供達はどうなったの?」
「…結果的に言えば、この土地は盗賊の襲撃にあった時に、全てを失った。盗賊の襲撃に遭った時、大人たちは子供を隠したけど、最終的には子供たちは盗賊に見つかってしまって、皆殺しにあった。地下に隠れたのは良かったけど、逃げ場はなかった。その地下室にあったのが、そこにある子供たちの骨とこのぬいぐるみ。」
「嘘・・・。子供達だけ助かったって…」
「そんなの、このぬいぐるみが作り上げた話。きっとこのぬいぐるみは大切にされていたんだと思う。子供たちが大好きで、大好きで、その想いが魔物と土地の幻の媒介とされてしまった要因。もしかすると、子供たちの報われなかった魂も幻を創り出すのに使われたのかもね。思いは、幻として子供達と集落を再び再生させた。」
「…そんな。…じゃぁ、ハッシュは?どうなったの?」
「ハッシュは、ぬいぐるみが作り上げた幻。本物はきっとどこかを旅してる。」
「…じゃぁ、あのハッシュは私の力を奪うために用意された私の餌だったの…?」
「…そういうことになるかもしれないけど、でも、この土地にとって、人々にとって、そして、ぬいぐるみにとって、ハッシュは大切な存在であったのことは間違いない。この土地の英雄だったからハッシュが幻として存在したのだと思う。」
 ククは一気に虚脱感を感じた。あのハッシュは偽物。しかし、杖に巻き付いているウミガメのネックレスはここにしっかりと存在している。一体、どういうことなのだろうか、とククは不思議に思った。
「なんだか良く分からないけど、あのハッシュは幻だった…」
「うん。でも、ここまでの幻を作り上げる技術があるから、ただ単にククを誘惑してたんじゃないのかもしれない。もしかすると、ハッシュの思いがこの土地に残っていたから、あのハッシュの幻が作り上げられたと考えても良いのかもしれない。でも、一番はククの願いが幻に反映されたんだと思う。」
 幻のハッシュはククの妄想の賜物だった、という事実を知って、ククはなんだか情けなくなってきた。
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 2014_09_07

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