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白雪姫②







 
 白雪姫は目を覚ましました。どれくらい眠ったのかわかりません。窓の外は暗くなっています。
 ぐんと伸びをし、あくびが出そうになったので、両手で上品に抑えます。
 ふと周りに目を遣りますと、部屋の隅に小さな子供たちが集まって白雪姫を警戒するように見ていました。
 白雪姫は首を傾げて子供達に声をかけます。
「あ、あの、ごめんなさい。私、勝手に入ってしまいました。」
 猫耳のフードを被った女の子が他の子供を守るように手を広げています。そして、強い口調で
「そ、そうだよ、お前、勝手に人んちに入って、勝手にベッドも使って寝るなんて、ふてぶてしいにもほどがある!」
と言いました。白雪姫は「ごめんなさい」と謝ることしかできません。
「…君は僕たちのことを殺しに来たの?」
 青い恐竜のフードを被った男の子が、猫耳の子の後ろから恐る恐る質問してきました。
 白雪姫は殺すだなんて物騒な言葉を使ったことがなかったので、一生懸命首を横に振りました。
「あなたは一体何しに来たの?」
 魚のフードを被った女の子が、聞いてきます。
「私は、狩人さんから、もうお城に戻って来てはいけないって言われたんです。森の奥には私を助けてくれる人がいるって言われて、ここまで歩いて来て、偶然辿り着きました。狩人さんも後から来るって言ってたので、後から来ると思います。」
 皆が白雪姫に興味を持って、前へ前へ出ようとするので、皆をその小さな腕で守ろうとしていた猫耳フードの女の子は前につんのめって倒れてしまいました。
 雪崩が起きたかのように他の子供達も前につんのめって倒れてしまいました。そのなかでもケロッとした様子で顔を上げて質問してきたのは、何もないフードを被っていますが、背中には天使の羽がついた女の子でした。
「なんでなんで?なんでお城に戻っちゃいけないの?おねえちゃんはどこからきたの?」
 人懐こい笑顔を向けて天使の羽の女の子が聞いてきます。
「なんでお城に戻っちゃいけないのかわかりません。私はこの森の外のお城から来ました。」
「むむ、もしかして、お前、名前は白雪姫っていうのか?」
 天使の羽の女の子下敷きになっていた男の子が顔だけ上げて聞いてきました。男の子は黒いフードを被っていました。
「はい。本当の名前はククですけど、皆からは白雪姫って呼ばれてます。」
 子供たちは「白雪姫」と聞くと、顔を見合わせて、ひそひそ話を始めます。
 白雪姫は一人のけ者にされて寂しくて悲しい気持ちになりました。
 子供たちは時々ちらちら白雪姫のことを見て来ますが、その視線が白雪姫には嫌われているように感じられる視線だったので、益々悲しくなりました。白雪姫はこれまで嫌われたことがなかったものですから、悲しくて悲しくて仕方ありませんでした。あまりにも悲しくて、とうとう白雪姫はしくしく静かに泣き出してしまいました。
「あ!」
 魚のフードを被った男の子がびっくりしたように白雪姫を指差します。魚フードを被った子は男の子と女の子両方いるようです。
「白雪姫、泣いている。」
「え、どうしたの?白雪姫。」
 猫耳の女の子が恐る恐る白雪姫に近付きます。それに続いて他の子供達も白雪姫に近付き、泣いている白雪姫を心配そうに見つめます。
「変な子ね。」
 花の冠がついたフードを被った女の子が呆れたように言い放ちました。
「もしかすると、一人でいるのが寂しいのかもね。」
 魚フードの女の子が言いました。猫耳フードの女の子はそれを聞くと、白雪姫を黙って見つめました。そして、さらに近付くと、白雪姫の黒壇のように艶がある黒い髪を優しく撫でました。
 白雪姫は顔を上げて、猫耳フードの女の子を見つめます。涙で濡れた瞳はびっくりしていました。
「大丈夫だよ。私達がついてるから。」
 と、猫耳の女の子に言われたので、白雪姫の不安や悲しみは急に吹っ飛びました。にっこりと笑顔になって、子供達に「ありがとう」と言いました。
 この時、子供たちは白雪姫の笑顔にメロメロになったので、白雪姫がこの家に住むことを許すことが出来ました。


「白雪姫!私達は昼間仕事をしなきゃいけないの。だから、このおうちでお留守番しててね!」
 そう言って子供たちは朝早くから出かけていくのでした。
 一人残された白雪姫は、寂しくなりましたが、大人しく家で子供たちの帰りを待つことにしました。しかし、やることがなくて暇です。お城には遊ぶものが沢山ありましたが、ここには何もありません。あたりをきょろきょろ見回してみると、この家は服が脱ぎっぱなしだったり、ごみがそこら辺に落ちていたり、少し汚いことに気が付きました。白雪姫はなんだか片づけをしたくなって体がむずむずしてきました。せっせと部屋の片づけを行い、近くの川で洗濯を行い、穏やかなのお日様の下に干しました。お城ではこんなことは召使がやってくれるので、白雪姫はあまりやったことはありませんでしたが、やってみると意外と楽しいことに気付きました。
 それから、白雪姫は仕事に出た子供たちのために、ご飯を作って待つことにしました。
 料理をするのも白雪姫はあまりやらせてもらえませんでしたが、よくメイドから料理の仕方を聞いていたので、今がまさに実践の時でした。意外と上手に作ることが出来ました。白雪姫は案外家庭的だったみたいです。姫でなければ良いお嫁さんになれたことでしょう。
 夕方になって子供たちが戻ってきました。子供たちは部屋の様子を見て歓喜の声を上げます。
「すごーい!部屋がきれいになってる!」
「お洋服もきれいにたたまれてる!」
「あ、ご飯も作られてるぜ!」
 子供たちはきれいな部屋と美味しそうな食事の匂いに大興奮です。それから皆でテーブルの周りに集まって、白雪姫のご飯を食べ始めます。子供たちは一口料理を口にすると、幸せそうな表情で美味しいと喜びました。
 白雪姫は子供たちの喜ぶ姿が嬉しくて、明日も掃除洗濯炊事を頑張ろうと思いました。

 そして、数日が経ちました。
 今日も子供たちは仕事のために外へ出ます。
「じゃぁ、今日もおしごと、行って来るよ!」
 猫耳フードの女の子が元気に言いました。それに続いて魚のフードの女の子が
「そうだ、白雪姫、こんなところにやって来る人は滅多にいない。だから、もし誰かやって来たとしても無視をするんだよ。」
と、言って来ました。白雪姫はその理由に検討を付けることが出来ませんでしたが、極力守ろうと思いました。
「じゃぁ、いってくるね~。」
 天使の羽を付けた女の子が言うと、子供たちは森の奥へと消えて行きました。
 白雪姫は腕まくりをして、今日は何から始めようかな、と考えました。
 今日もいい天気です。先に洗濯をしてから、部屋の掃除を行うことに決めました。子供とはいえ、7人分の服の洗濯はなかなか時間がかかります。それに白雪姫は、子供たちの服に刺繍を施したいと思っていたので、早く終わらせてしまう方が都合が良かったのです。
 洗濯が終わると、次は部屋の掃除です。子供たちは夜にしかいないのに、部屋はすぐに散らかります。しかし、その方が掃除のし甲斐があるので白雪姫の気持ちもしゃきっとします。
 部屋の掃除をしていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえました。誰だろうと思って、白雪姫はすぐにドアを開けました。するとそこには、平民の身なりをした若い女が立っていました。くすんだ色のスカーフを頭に巻いて、腕には綺麗な色の絹糸が沢山入った籠を持っていました。
「こんにちは。生糸はいりませんか?」
 優しい口調の女に、白雪姫は安心感を覚えましたが、ふと魚のフードを被っていた女の子が言っていたことを思い出しました。『もし誰かやって来たとしても無視をするんだよ』と魚のフードの女の子に言われていましたが、白雪姫は子供たちの服に刺繍を施そうと思っていたところでした。この女が持つ生糸があれば、素晴らしい刺繍が出来上がるのではないかと思い、女の相手をすることにしました。
「綺麗な生糸ですね。どんなものがあるか見せて貰ってもよろしいですか?」
 女は白雪姫の反応に嬉しそうな表情をしました。
「えぇ、もちろん。私、本当はこちらに生糸を売りに来たんですけど、お嬢さんのためならば、1個無料でお渡ししますわ。」
「本当ですか?ありがとうございます。」
 白雪姫は女から籠を受け取り、生糸を選びます。夕方の茜色、黄昏の藤色、澄み切った青空色、新緑の緑色、実りの穂の黄金色といった様々な生糸がありましたが、白雪姫はその中でも特に綺麗な虹色に輝く生糸を選び、手に取りました。すると、不思議なことに、生糸はまるで蛇のようにうねうねと動き出し、白雪姫の首に巻き付きます。そして、物凄い力で白雪姫の首を締め上げます。白雪姫は呼吸が出来なくなり、真っ青な顔で意識を失ってその場に倒れ込みました。
「あとはあの子たちが葬ってくれるでしょう。」
 生糸売りの女は、恍惚の表情で倒れている白雪姫にそう言い残して、立ち去って行きました。くすんだ色のスカーフの下からは燃えるような紅い髪の毛がちらりと見えました。


 夕方になって子供達が帰ってきました。そして、部屋で倒れている白雪姫を見て、驚きます。
「白雪姫、どうしたの?」
「顔が真っ青だよ。」
「大変だ、体も冷たくなってる!」
「白雪姫、死んじゃったの?」
 子供たちはオロオロします。子供達は可愛くて家事が出来る白雪姫のことが大好きになっていたので、大きな衝撃を受けていました。
「待って、首に何か巻き付いているよ。」
「生糸が巻き付いているよ。」
「こんなの、切ってやる!」
 そう言って、花冠がついたフードの女の子がはさみを持ってきて、ジョキンと白雪姫の首に巻き付いていた生糸をちょん切りました。すると、白雪姫の顔色が見る見るうちに良くなり、しばらくすると意識を取り戻しました。
「白雪姫!」
 子供たちは皆心配そうに白雪姫に声をかけます。
 白雪姫はぼんやりしていましたが、慎ましやかにあくびを一つして背を伸ばしてから不思議そうに子供たちのことを見ました。
「あら、皆、お帰りなさい。」
 子供たちは一瞬背中に悪寒が走りましたが、白雪姫が生き返ったのです。みんなで胸をなでおろしました。
「白雪姫、もしかして誰か来た?」
 青い恐竜のフードを被った男の子が聞きました。白雪姫はばつの悪そうな表情をしながら、こくりと頷きます。すると猫耳フードの女の子が「相手にしちゃいけない、って言ったじゃん!」と怒り出しました。白雪姫はごめんなさい、ということしかできませんでした。
 子供たちの中では一番しっかりしている魚のフードの女の子が白雪姫に言い聞かせます。
「あのね、白雪姫、実はあなたは命を狙われているんだよ。悪い悪い魔女が、白雪姫の美しさに嫉妬してあなたを殺そうとしているの。だから、不用意に知らない人と関わっちゃいけない。わかった?」
 白雪姫はこくりと頷きます。
「じゃぁ、今日は俺達でご飯を作ろう。白雪姫は休んでて。」
 と、魚のフードの男の子が言うと、子供たちは皆で今晩のご飯の準備を始めました。
 白雪姫は違和感を感じる首元を撫でました。特に何の問題もありません。鏡を見ても何か跡が残っている様子もありませんでした。しかし、床には汚らしい糸がバラバラに切断された状態で散らかっていました。あの綺麗な虹色の生糸はどこに行ったのでしょう。
 その時、白雪姫はハッとしました。洗濯物を干しっぱなしだったことを思い出したのです。慌てて外に出ようとしましたが、花冠のフードの女の子に「だから外にでちゃだめだってば」と止められました。洗濯物の取り込みは天使の羽の女の子と黒いフードの男のがやってくれました。

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 2015_03_14

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