白雪姫④
Category: アルトフールの物語
それからすぐに子供達が帰ってきました。
子供たちは仕事中ではありましたが、虫の知らせがあったために、白雪姫が心配になって、仕事を切り上げて猛ダッシュで戻ってきたところでした。やはり、虫の知らせは的中してしまったようで、白雪姫はうつぶせになって倒れているではありませんか。白雪姫の顔色はもう土気色になって苦悶の表情を浮かべていました。意識がないだけでなく、もう呼吸すらしていません。
子供たちは、白雪姫の死因を探しますが、見つかりません。生糸や櫛のような原因を探しますが、どこにもありませんでした。もう白雪姫は生き返らないであろうことを悟り、子供たちはワンワン泣きじゃくりました。三日三晩泣き続けましたが、白雪姫が生き返ることはありませんでした。
子供たちは仕事場から、黒壇で出来た祭壇を運んできました。そして、花が咲き誇る森の広間に奉ります。そして、その祭壇の上に白雪姫を寝かせました。子供たちは、白雪姫を葬ろうとしましたが、真っ暗な土の中に埋めるのも、その身を炎で焼き尽くすこともできなかったので、きれいで美しい祭壇で寝かせることに決めたのでした。
子供たちは余計なものがつかないように、白雪姫の周りを透明なガラスで囲みました。
祭壇の上で静かに永遠の眠りにつく白雪姫はまるで人形のようでした。
子供たちは、祭壇上の白雪姫を見るごとに涙を流していましたが、ふと白雪姫の美しさに気付くと泣くのをやめてうっとりとしてしまいました。
白雪姫の亡骸を見に来たのは子供達だけではありませんでした。森で暮らす生き物たち、小鳥やウサギ、ネズミ、シカなども見にやってきました。動物たちも皆白雪姫の死を悲しんでいるのでした。
白雪姫が死んでからというもの、子供たちは悲しみに明け暮れ、仕事に行かなくなりました。毎日毎日白雪姫の姿を見ては悲しみに暮れていました。
そんな生活が2年も続きました。
祭壇の上の白雪姫は相変わらず綺麗なままでいました。彼女は死んでいるはずでしたが、少しだけ体が大きくなっていましたので、子供たちは美しいドレスを白雪姫に着せていました。
そんな中、白馬に乗った一人の王子が森の中にやってきました。日が暮れたところで、子供たちの家を見つけたので、一晩泊めさせてもらいました。
子供たちは、白雪姫が来た時には大変警戒していたというのに、隣国の王子は高貴な身分の人であるということで、全く警戒することなく快くおもてなしを行いました。王子は血色がよく、金色の髪がライオンのように豪快に生えていました。
翌日、王子は花畑にある祭壇の白雪姫を発見します。
ガラスに囲まれて眠り続ける白雪姫の亡骸を見た途端、王子はその姿に釘付けになり、動きが止まりました。
「王子様、いかがなさいましたか?」
王子はガラスの中の白雪姫を見て、懐かしそうに微笑みます。
「こちらの少女は何故ここに?」
「2年前、魔女に殺されてしまいました。」
「彼女はもう死んでしまったのか。」
「えぇ。…えぇ。白雪姫は、死んでしまいました。」
「彼女は白雪姫、というのか。」
「あ、そうです。白雪姫と言います。」
王子は、ほうとため息をついて、白雪姫をみつめます。
「まるで生きているようだ。彼女に触れることは叶わないだろうか。」
王子の言うことであれば断るわけにはいきませんでした。子供達は毎日白雪姫の手入れを行っていたので、触れることは容易いことでした。子供達はよいしょとガラスを外し、白雪姫を外気にさらします。
王子は白雪姫に近付き、そのひんやりと冷たい雪のような白い肌に触れます。力なくくったりとした手首を持ち、その甲に優しく口付けます。
「会いたかった。ここにいたんだな。でも、どうやら今の君は呪われているようだ。」
王子は白雪姫を優しく抱き起し、死してなおふっくらとした赤い唇にも口付けをしました。
すると、白雪姫は咳き込みました。
子供たちは吃驚仰天して、白雪姫を見ます。
白雪姫はげほげほと咳き込むと、ころりとりんごの破片を吐き出しました。
ぱちりと目を開けると、白雪姫は自分を抱く王子をじっと見つめます。
王子は微笑みを湛えたまま「君じゃない。」と言いました。
白雪姫は、にんまりと邪悪な笑みを浮かべます。王子も負けじと優しく微笑みました。
その様子に子供たちはガタガタと体を震わせました。
「し、白雪姫が生き返っちゃった…。」
「あいつが復活しちゃう…。」
「せっかく仮死状態になってたのに。」
「またこの国は暗雲に覆われちゃうんだ。」
「光が差し込まれなければ花が咲かない、食べ物も育たない。またあのひもじい時に逆戻り。」
「僕たちも消滅しちゃうんだね。」
「王子様、とんでもないことをしてくれたね。」
王子は白雪姫を抱きしめながら、微笑みを湛えたまま子供たちに返事をします。
「大丈夫。白雪姫もこの世界も私が守るから。安心して行くと良い。白雪姫は私に任せて。」
子供たちからぽわぽわとした光の玉が浮かび上がってきました。すると、子供たちはどんどん透けて行きます。
「白雪姫ともっと一緒にいたかったな。でも、あとは王子様に任せるよ。じゃあね。」
猫耳フードの女の子が、寂しそうに微笑みました。他の子供たちも寂しそうな表情を見せましたが、みな透明になって消えてしまいました。
「子供たち、ありがとう。よく白雪姫を守ってくれたね。」
子供達がいなくなってしまった花畑で王子様は小さく呟きました。
「さて、まずはお前を殺してやる。」
王子は語気を強めて、白雪姫に言いました。白雪姫は不敵な笑みを浮かべながら
「どうぞ、やれるものなら、やってごらんなさい。」
と答えました。
王子は白雪姫を連れて、白馬に乗って、ご自分のお城へ戻って行きました。
そして、数日後、王子と白雪姫の婚礼の儀が盛大に開かれました。
婚礼の儀には、王妃ハクアも招待されました。
王妃ハクアは真っ赤なドレスに身を包んでいました。
王妃が白雪姫と王子の前に謁見した際、白雪姫の真っ白なドレスとは対照的に、王妃の真っ赤なドレスは非常に毒々しいものに見えました。そして、王妃の目の前には真っ赤な鉄の靴が用意されていました。直前まで炭火で熱されていたために鉄の靴は真っ赤に焼けていたのです。
「よくもこの私に歯向かいましたね。」
悪魔的な笑みを浮かべて、白雪姫が美しい声で言いました。
「さぁ、お義母さま。私からのプレゼントです。是非お履きになって。その血のような紅いドレスに似合うことでしょう。」
王妃は黙って白雪姫を睨み付けます。自分よりもずっと美しい白雪姫に対しての無言の抵抗でしょうか。
すると、その時でした。
王子が帯刀していたサーベルで白雪姫の胸を一突きしました。真っ白なドレスにじわじわと真っ赤な血が浸み出します。
「王子、何をする…!」
白雪姫は目を見開いて、くぐもった声を上げます。
「白雪姫を返せ。」
白雪姫にしか聞こえない声で、王子は低い声で語りかけます。
白雪姫は口から大量の血を吐き出して、崩れるようにして倒れました。
それと同時に王妃は真っ赤に焼けた鉄の靴を履きました。
王妃は悲鳴を上げました。断末魔の叫びというものです。
「おのれ白雪姫、王子、そして…!ゆるさない!ゆるさない!うああ、あつい、あつい!足が溶ける。あつい!あぁ!」
そして、王妃は熱さに耐え兼ね、あちこちを飛び跳ねます。その姿はまるで踊っているようでした。紅いドレスと赤い髪の毛がうねり狂う様子はまるで炎の様でした。
王子は王妃が力尽きて死ぬまで、その様子を見ていました。
そして、王妃が死ぬのを確認してから、王子は白雪姫の胸に刺さっていた剣を抜きました。
するとどうでしょう。白雪姫は目を覚まし、体を起こしたのです。自身の様子、周りの様子を見て、呆然としています。
「私は今まで一体?…」
「おかえり、白雪姫。あいたかったよ。」
王子は白雪姫をぎゅっと抱きしめ、そして熱い口付けを交わしました。
それから二人は末永く幸せに暮らし、国も豊かに繁栄したとのことです。
めでたしめでたし。
子供たちは仕事中ではありましたが、虫の知らせがあったために、白雪姫が心配になって、仕事を切り上げて猛ダッシュで戻ってきたところでした。やはり、虫の知らせは的中してしまったようで、白雪姫はうつぶせになって倒れているではありませんか。白雪姫の顔色はもう土気色になって苦悶の表情を浮かべていました。意識がないだけでなく、もう呼吸すらしていません。
子供たちは、白雪姫の死因を探しますが、見つかりません。生糸や櫛のような原因を探しますが、どこにもありませんでした。もう白雪姫は生き返らないであろうことを悟り、子供たちはワンワン泣きじゃくりました。三日三晩泣き続けましたが、白雪姫が生き返ることはありませんでした。
子供たちは仕事場から、黒壇で出来た祭壇を運んできました。そして、花が咲き誇る森の広間に奉ります。そして、その祭壇の上に白雪姫を寝かせました。子供たちは、白雪姫を葬ろうとしましたが、真っ暗な土の中に埋めるのも、その身を炎で焼き尽くすこともできなかったので、きれいで美しい祭壇で寝かせることに決めたのでした。
子供たちは余計なものがつかないように、白雪姫の周りを透明なガラスで囲みました。
祭壇の上で静かに永遠の眠りにつく白雪姫はまるで人形のようでした。
子供たちは、祭壇上の白雪姫を見るごとに涙を流していましたが、ふと白雪姫の美しさに気付くと泣くのをやめてうっとりとしてしまいました。
白雪姫の亡骸を見に来たのは子供達だけではありませんでした。森で暮らす生き物たち、小鳥やウサギ、ネズミ、シカなども見にやってきました。動物たちも皆白雪姫の死を悲しんでいるのでした。
白雪姫が死んでからというもの、子供たちは悲しみに明け暮れ、仕事に行かなくなりました。毎日毎日白雪姫の姿を見ては悲しみに暮れていました。
そんな生活が2年も続きました。
祭壇の上の白雪姫は相変わらず綺麗なままでいました。彼女は死んでいるはずでしたが、少しだけ体が大きくなっていましたので、子供たちは美しいドレスを白雪姫に着せていました。
そんな中、白馬に乗った一人の王子が森の中にやってきました。日が暮れたところで、子供たちの家を見つけたので、一晩泊めさせてもらいました。
子供たちは、白雪姫が来た時には大変警戒していたというのに、隣国の王子は高貴な身分の人であるということで、全く警戒することなく快くおもてなしを行いました。王子は血色がよく、金色の髪がライオンのように豪快に生えていました。
翌日、王子は花畑にある祭壇の白雪姫を発見します。
ガラスに囲まれて眠り続ける白雪姫の亡骸を見た途端、王子はその姿に釘付けになり、動きが止まりました。
「王子様、いかがなさいましたか?」
王子はガラスの中の白雪姫を見て、懐かしそうに微笑みます。
「こちらの少女は何故ここに?」
「2年前、魔女に殺されてしまいました。」
「彼女はもう死んでしまったのか。」
「えぇ。…えぇ。白雪姫は、死んでしまいました。」
「彼女は白雪姫、というのか。」
「あ、そうです。白雪姫と言います。」
王子は、ほうとため息をついて、白雪姫をみつめます。
「まるで生きているようだ。彼女に触れることは叶わないだろうか。」
王子の言うことであれば断るわけにはいきませんでした。子供達は毎日白雪姫の手入れを行っていたので、触れることは容易いことでした。子供達はよいしょとガラスを外し、白雪姫を外気にさらします。
王子は白雪姫に近付き、そのひんやりと冷たい雪のような白い肌に触れます。力なくくったりとした手首を持ち、その甲に優しく口付けます。
「会いたかった。ここにいたんだな。でも、どうやら今の君は呪われているようだ。」
王子は白雪姫を優しく抱き起し、死してなおふっくらとした赤い唇にも口付けをしました。
すると、白雪姫は咳き込みました。
子供たちは吃驚仰天して、白雪姫を見ます。
白雪姫はげほげほと咳き込むと、ころりとりんごの破片を吐き出しました。
ぱちりと目を開けると、白雪姫は自分を抱く王子をじっと見つめます。
王子は微笑みを湛えたまま「君じゃない。」と言いました。
白雪姫は、にんまりと邪悪な笑みを浮かべます。王子も負けじと優しく微笑みました。
その様子に子供たちはガタガタと体を震わせました。
「し、白雪姫が生き返っちゃった…。」
「あいつが復活しちゃう…。」
「せっかく仮死状態になってたのに。」
「またこの国は暗雲に覆われちゃうんだ。」
「光が差し込まれなければ花が咲かない、食べ物も育たない。またあのひもじい時に逆戻り。」
「僕たちも消滅しちゃうんだね。」
「王子様、とんでもないことをしてくれたね。」
王子は白雪姫を抱きしめながら、微笑みを湛えたまま子供たちに返事をします。
「大丈夫。白雪姫もこの世界も私が守るから。安心して行くと良い。白雪姫は私に任せて。」
子供たちからぽわぽわとした光の玉が浮かび上がってきました。すると、子供たちはどんどん透けて行きます。
「白雪姫ともっと一緒にいたかったな。でも、あとは王子様に任せるよ。じゃあね。」
猫耳フードの女の子が、寂しそうに微笑みました。他の子供たちも寂しそうな表情を見せましたが、みな透明になって消えてしまいました。
「子供たち、ありがとう。よく白雪姫を守ってくれたね。」
子供達がいなくなってしまった花畑で王子様は小さく呟きました。
「さて、まずはお前を殺してやる。」
王子は語気を強めて、白雪姫に言いました。白雪姫は不敵な笑みを浮かべながら
「どうぞ、やれるものなら、やってごらんなさい。」
と答えました。
王子は白雪姫を連れて、白馬に乗って、ご自分のお城へ戻って行きました。
そして、数日後、王子と白雪姫の婚礼の儀が盛大に開かれました。
婚礼の儀には、王妃ハクアも招待されました。
王妃ハクアは真っ赤なドレスに身を包んでいました。
王妃が白雪姫と王子の前に謁見した際、白雪姫の真っ白なドレスとは対照的に、王妃の真っ赤なドレスは非常に毒々しいものに見えました。そして、王妃の目の前には真っ赤な鉄の靴が用意されていました。直前まで炭火で熱されていたために鉄の靴は真っ赤に焼けていたのです。
「よくもこの私に歯向かいましたね。」
悪魔的な笑みを浮かべて、白雪姫が美しい声で言いました。
「さぁ、お義母さま。私からのプレゼントです。是非お履きになって。その血のような紅いドレスに似合うことでしょう。」
王妃は黙って白雪姫を睨み付けます。自分よりもずっと美しい白雪姫に対しての無言の抵抗でしょうか。
すると、その時でした。
王子が帯刀していたサーベルで白雪姫の胸を一突きしました。真っ白なドレスにじわじわと真っ赤な血が浸み出します。
「王子、何をする…!」
白雪姫は目を見開いて、くぐもった声を上げます。
「白雪姫を返せ。」
白雪姫にしか聞こえない声で、王子は低い声で語りかけます。
白雪姫は口から大量の血を吐き出して、崩れるようにして倒れました。
それと同時に王妃は真っ赤に焼けた鉄の靴を履きました。
王妃は悲鳴を上げました。断末魔の叫びというものです。
「おのれ白雪姫、王子、そして…!ゆるさない!ゆるさない!うああ、あつい、あつい!足が溶ける。あつい!あぁ!」
そして、王妃は熱さに耐え兼ね、あちこちを飛び跳ねます。その姿はまるで踊っているようでした。紅いドレスと赤い髪の毛がうねり狂う様子はまるで炎の様でした。
王子は王妃が力尽きて死ぬまで、その様子を見ていました。
そして、王妃が死ぬのを確認してから、王子は白雪姫の胸に刺さっていた剣を抜きました。
するとどうでしょう。白雪姫は目を覚まし、体を起こしたのです。自身の様子、周りの様子を見て、呆然としています。
「私は今まで一体?…」
「おかえり、白雪姫。あいたかったよ。」
王子は白雪姫をぎゅっと抱きしめ、そして熱い口付けを交わしました。
それから二人は末永く幸せに暮らし、国も豊かに繁栄したとのことです。
めでたしめでたし。
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