そして、食事を終えた頃、ニタは何かを決意したかのように立ち上がり、男達の方へ歩いて行った。クグレックは後を追おうと思ったが、知らない男性達の中に入っていくのは気が引けた。ニタが離れて行ってしまったことを不安に感じながら、男達の一群を見つめる。
ニタはぽてぽてと男達の環の中に入り、大きな声で「たのもー!」と言って男達の気を引いた。
男たちは「なんだなんだ」と言ってざわつき、男たちの視線はニタに集中した。
ニタはテーブルの上によじ登ると仁王立ちになり、拳を突き上げてのたまった。
「我は勇敢なるペポ族の戦士ニタなり!此度の希少種ニルヴァのための山賊退治、ニタも参加しよう!」
一瞬の沈黙の間。
そして爆発的に起こる嘲笑の声。
「なんだ?ぬいぐるみ風情の人外に何が出来るってんだ。」
「子供の遊びじゃねえんだぞ!」
「のんびりポルカの観光でもしていきやがれ!」
ニタはバンとテーブルを踏み鳴らし「うるさーい」と叫んだ。男たちは、びっくりして、再び静まり返った。
「ぬいぐるみ扱いするんじゃない!ニタはニタだっつの!ニタの手にかかれば、お前らなんて一捻りなんだからな!ほら、そこのでっかいの、ニタを殴ってみろ!」
ニタはぴょんとテーブルから飛び降りた。そして男達の中で一番体格の大きい男に対して、来い来いと言わんばかりに手を仰ぎ、男の攻撃を待つ。
男は、なめんなよ、と言いながら、手を鳴らし、腕を回した。ゆっくりとニタに近付き、その丸太のように鍛え上げられた上腕二頭筋を振り上げ、ニタに向かって拳を放った。
ニタは「楽勝楽勝」と言って、その猛虎の如き拳を、可愛らしい肉球のついたもふもふとした白い毛に包まれた手で、衝撃ごと受け止めた。余裕の表情を浮かべて、ニタは「もっと本気だしたら?」と煽る。
男はこめかみに青筋を浮かばせながら、拳に力を入れるが、ニタはびくとも動かなかった。
しばらく力比べが拮抗していたが、ニタは片手で口を押えながらあくびを一つ。
「ふわぁ。あんまり暴れると、おかみさんに迷惑がかかっちゃうからね。このデカいお兄さん、今から倒れちゃうから、周りのお兄さんは支えてあげてね。じゃ。」
ニタは拳を受け止める力を少し弱めると、それまで拮抗していた力のバランスが崩れ、男は前にぐらついた。その隙をつき、ニタは飛び上がって男の顔に向かい、可愛らしい肉球を握りしめ、殴りつけた。
「肉球パンチ!」
ニタに殴られた男は、今度はニタのパンチの衝撃を受け、仰向けになって吹き飛ばされた。取り囲む男達が飛んできた男を支えたため、倒れることはなかったが、男の頬っぺたにはニタの可愛らしい肉球跡が残っていた。
「どうだ!」
ニタは腰に両手をあて、胸を張ってふんぞり返った。
「村一番の力自慢のリックを手籠めにするとは。しかし…。」
ニタが殴り飛ばした男、リックとニタを交互に見回しながら、口籠る巻き毛の男。その表情は戸惑いに包まれていた。
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