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ニタと幻の不死鳥⑬



 が、安堵の時間はそう長くは続かない。突然クグレックは何者かに後ろから羽交い絞めにされ、身動きが取れなくなった。丸太のように太くて浅黒い腕がクグレックを抑える。
 いつの間にか、ビートたちを手当てしていた村の男たちが倒れている。
 耳元では男の荒い呼吸が聞こえた。
「よう、魔女のお嬢ちゃん。君の仲間が、俺の部下たちに随分ひどいことをやってくれたじゃないの。ちょっと人質になってもらうよ。」
 下衆い声がクグレックの耳元でそう囁くと、クグレックの頬にひんやりとした金属を押し付ける。
 村人の前情報では山賊は10人であったが、この男の出現で11人目となる。しかも、話の内容から察するに、この男は山賊の中のボスであることが考えられた。
「逃げようとしないことだ。このナイフはよく切れるんだ。」
 ひんやりとしたナイフの刃先がつうとクグレックの頬をなぞる。
 クグレックはびっくりして、声を出せなかった。呼吸が浅くなり、心臓の動機も早まる。
 ボスがニタ達に向かって声を上げた。
「おい、そこの砂漠の民とペポの生き残り!この女がどうなっても良いのか!」
 ニタとマシアスは人質に取られたクグレックの姿を見て、ぴたりと動きを止めて山賊達に対する攻撃姿勢を解いた。
山賊達はニタとマシアスの攻撃を受けまくって、立つのもやっとな状態だったが、クグレックの後ろにいる自分たちのボスの姿を見た瞬間、ほっとしたような表情を浮かべた。
「さぁ、お前たち、今宵はニルヴァだけでなく、数年前に絶滅されたとされる希少種のペポもいる。そこの男は殺してしまっても構わないが、このペポはニルヴァ同様生け捕りにして捉えろ。動きを封じるために、骨を折るくらいなら構わん。コレクターであるならば希少種をペットにしたいと金を出すだろうが、最終的にペポはその瞳と毛皮に価値があるのだ。邪魔な男達は全て殺してしまえ。」
「卑怯だぞ!」
「おっと、砂漠の民と希少種は動くな。動いたらこの魔女の命はなくなると思え。」
 そうして、ニタとマシアスは重傷の山賊達からの攻撃を一方的に受ける。クグレックは目の前の惨劇に、ただひたすら自分の無力さを恨むばかりだった。羽交い絞めにされて身動きが取れなくなってしまっては、魔法も使うことが出来ない。クグレックの友達のニタが、自分の目の前で酷い目に遭っているというのに。
 と、その時であった。
 闇に包まれた夜空がほんのりと明るくなった。ねぐらに戻ったとされていたニルヴァが、再び夜の空を悠遊と舞い始めたのだ。
 最初はぐるりと孤を描いて飛んでいたが、徐々に高度を下げて来た。そして、悠遊とクグレックたちのもとへ降り立った。
 警戒心がないだけなのか、それとも絶対的な力を持つ余裕なのか。黄金の羽毛に包まれたニルヴァは神々しい。泰然自若としたその佇まいは希少種だから出せるものなのだろう。そう言えば、メイトーの森の主である白猫のメイトーもよくよく考えれば希少種であり、同様に悠々としていた。
 ニルヴァがその光り輝く翼を広げて羽ばたけば、黄金の粒子がふわりと舞う。瀕死の状態にある村の男たちの傍を低空で羽ばたく。黄金の粒子が村の男達にくっつけば、怪我は見る見るうちに回復し、傷跡や痣は何事もなかったかのように消えてしまった。ビート達が言っていたニルヴァが持つ“少し不思議な力”とは、この治癒能力のことであった。
 その中の一人のビートは目を覚まし、倒れた状態のまま顔を上げた。まだ体に力は入らないようだ。悠々と旋回するニルヴァを目を細めながら見つめている。
 幻想的な光景に、クグレックはニルヴァこそ本で読んだ伝説の不死鳥なのだろうかと思ったが、ビート達の話によればニルヴァは決して不死鳥ではないらしい。生き血を飲んだとしても、その肉を食したとしても、摂取したものが不老長寿になったり、不老不死になったりはしないそうだ。
 だが、無常なことに神殺しは存在する。ボスが握っていたナイフをニルヴァに向かって投げつけたのだ。
 ナイフは見事にニルヴァの右翼に命中し、低空を羽ばたいていたニルヴァは悲鳴を上げてバランスを崩して地に降り立った。ナイフは痛々しく右翼に刺さっており、血がどくどくと流れている。ボスは更に懐に隠し持っていたもう1本のナイフを投げつけ、ニルヴァの腹部へと刺した。
 ニルヴァは「ギャアァァァ」と苦しげな悲鳴を上げ、どさりと地に伏した。炎のような赤い瞳が虚ろに地面を見つめる。
「は、は、は。死なないくせに、何がつらいんだ。」
 ボスはクグレックの尻を蹴飛ばし、瀕死のニルヴァへとにじり寄った。彼はニルヴァを不死鳥だと思い込んでいるようだ。
 弱々しく呼吸をするニルヴァの黄金の体躯からは、輝きが消え失せていた。
 ボスはニルヴァの足を掴み、逆さにして持ち上げた。血がどくどくと流れ出るのもお構いなしにニルヴァを乱暴に扱い、両足を縄で縛り、すぐそばの木の幹に括り付けた。重傷を負ったニルヴァはもう飛び立つことも逃げ出すことも出来ない。
 ボスはニルヴァの右翼に付いたナイフを抜くと、次にニタの方を振り返った。
「次はお前だ。」
 と、ボスが言った。
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 2015_09_23

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