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マシアスとピアノ商会①



 クグレックとニタはリタルダンド共和国の首都アッチェレに到着した。ポルカの村を降りた麓の村から、首都までの定期馬車が出ていたので、それに乗り、1週間かけてやってきた。都会の風景は、クグレックに地面を見る隙を与えない。隙間なく煉瓦造りのアパートメントが立ち並ぶ。
 建築途中の建物がちらほら見受けられるが、比較的新しいレンガ造りの建物が多く立ち並ぶこの都市は、かつての政変が非常に過酷な状況であったことと、その後の統治者による復興が良く進められていることを表していた。
 また、建物だけでなく道も綺麗に整備されている。綺麗に石畳が並べられた道路の傍には花壇が作られ、葉牡丹と葉がわずかにしか残っていない枯れた街路樹が植えられていた。
 のんびりとアッチェレ市街地を歩いていた二人だったが、次第に日が傾いて薄暗くなり、街灯にも灯りがつけられていくようになった。
 そろそろ休む場所を確保しなければならないので、宿屋を探して道を歩いていると、ふとニタが「あ」と声を上げた。宿屋の看板を探して辺りをきょろきょろ見回していたクグレックはその声に立ち止り、ニタを見た。
 ニタは白いふかふかの毛を全身逆立たせ、通りの向こうの人物を見つめていた。
 時刻は黄昏時。向こうの通りは未だ街灯が点いていないので、クグレックにはどんな人物なのか判別できなかった。男性が二人歩いていることしか分からなかった。
 ニタは身体能力が高い。おそらく、その視力も人間以上のものを持つのだろう。
 クグレックはどうしたのか、ニタに尋ねてみた。
「一体どうしたの?」
「ククは分からないの?」
 ニタが信じられないというような口調で言った。
「あいつら、ニルヴァを狙った山賊のボスと…」
「え、警察に捕まって、裁判にかけられたんじゃなかったの?」
 ニタはクグレックの問いを無視して、目をこすってもう一度通り向こうの男性を見た。
「そんなことより、もう一人は、マシアスだよ。どういうこと?」
「え、マシアスさん?」
 クグレックも驚いて、目を細めながら通り向こうの男達を見た。
 確かに一人は筋骨隆々で浅黒い肌をしている。山賊のボスと言われれば、確かにそうである。
 だが、その傍の同じくらいの身長のオールバックの金髪の男性はクグレックは見たことがない。ニタ曰く、彼がマシアスだということになるのだが。
「あの水色の目。ニタは覚えている。」
 こんな距離からでも識別できてしまうニタの視力に驚きながらも、クグレックはその言葉を信じ切れずにいた。何故ならマシアスはポルカで共に山賊退治をした仲間なのだ。そんな人物が、なぜ敵であった山賊のボスと一緒にいるのか。
「ニタ、ニタの目が良いことは凄いと思う。でも、マシアスさんは味方だよ。なんで山賊のボスなんかと一緒に居るの?それに、水色の目を持った人なんて沢山いるじゃない。」
 クグレックの故郷であるマルトの住民は鳶色の瞳の人が多かったが、その国の首都から来る偉い役人や騎士は青い瞳の者が多かったことをクグレックは覚えていた。
「いや、あいつはマシアスだ。きっと。ちょっと後を追ってみよう。」
「えぇ、やめようよ。」
 クグレックの静止も聞かずに、ニタは二人の追跡を開始する。クグレックは仕方なくニタの後を着いて行った。クグレックはそろそろお腹もすいて来たし、足も疲れて来たので休みたかったが、言葉には出さなかった。
 しばらくつけていくと、男二人は大きな煉瓦造りのアパートメントに入って行った。正面にドアが付いた形の3階建てのアパートメントだった。ドア上部には「ピアノ商会」と書かれた真鍮の表札が掲げられていた。
「ここは商業事務所みたいだね。」
 クグレックが言った。辺りには闇が迫っているが、街灯の灯りが点いていたので、クグレックでも『ピアノ商会』は認識することが出来た。
「うん。きっと、希少種ハンターのアジトだ。そもそもマシアスはグルだったんだ。マシアスはポルカの村から仕入れた情報を仲間の希少種ハンターに流してた。おかしいと思ったんだ。なんでニルヴァ防衛班はククを含めた4人だけだったのかって。防衛班にニタが行ったって良かったはず。アイツ一人でも山賊の8人くらい相手に出来たはずなのに。防衛班を手薄にして、残りの山賊に狙わせたのもマシアスだったんだって、ニタは思ってるよ。」
「そんな。マシアスさんは私達を助けてくれたじゃない。山賊のボスにとどめを刺したのはマシアスさんだよ。なにより、マシアスさんだって、私のせいで怪我を負ってるんだよ。きっとあの人はマシアスさんに似た別の人だよ。」
「いや、絶対マシアスだ。」
 ニタは全く折れる様子はない。ニタの頑固さにクグレックは呆れながら、ため息を吐いた。
「もう、じゃぁ、マシアスさんってことにしていいから、早く宿屋を見つけてご飯でも食べよう。」
「いや、これから突入する!」
 ニタはクグレックの話を聞かずに、ドアの取っ手に手をかけガチャガチャさせた。
 クグレックはため息を吐いた。
 そして、手に持っていた杖を構えると「ラーニャ・レイリア」と唱えると、ニタはそのままの格好でドアから遠ざけられた。クグレックは物体移動の魔法を使ったのだ。
「ちょっと、クク!ニタは希少種ハンターのアジトをぶっ潰さないといけないの!魔法を解いてよ!」
 ニタは手足をバタバタさせながらクグレックの魔法に抵抗する。
「…ここがアジトって分かったなら、明日でも良いと思う。今日は諦めて、ご飯食べて休んでからにしようよ。」
「嫌だ!」
 クグレックの魔法のため動けないニタは、まるで子供のようにその場で地団太を踏んだ。が、ふとした瞬間にそのふかふかした白くて丸いお腹から「ぐううう」と大きな唸りが発せられると、ニタは瞬時に大人しくなった。
「ククの言う通りだ。お腹空いたし、早く宿を探そう。」
「うん。」
 クグレックはにっこりと微笑んだ。
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 2015_10_26

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